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最高裁判所第一小法廷 昭和37年(オ)815号 判決 1966年6月23日

上告人

被上告人

乙新聞社

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田村恭久の上告理由第一点について。

民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(このことは、刑法二三〇条二の規定の趣旨からも十分窺うことができる)。

本件について検討するに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)によると、上告人は昭和三〇年二月施行の衆議院議員の総選挙の立候補者であるところ、被上告人は、その経営する新聞に、原判決の判示するように、上告人が学歴および経歴を詐称し、これにより公職選挙法違反の疑いにより警察から追及され、前科があつた旨の本件記事を掲載したが、右記事の内容は、経歴詐称の点を除き、いずれも真実であり、かつ、経歴詐称の点も、真実ではなかつたが、少くとも、被上告人において、これを真実と信ずるについて相当の理由があつたというのであり、右事実の認定および判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、十分これを肯認することができる。

そして、前記の事実関係によると、これらの事実は、上告人が前記衆議院議員の立候補者であつたことから考えれば、公共の利害に関するものであることは明らかであり、しかも、被上告人のした行為は、もつぱら公益を図る目的に出たものであるということは、原判決の判文上十分了解することができるから、被上告人が本件記事をその新聞に掲載したことは、違法性を欠くか、または、故意もしくは過失を欠くものであつて、名誉棄損たる不法行為が成立しないものと解すべきことは、前段説示したところから明らかである。

原判決は、その判文中にこれと異なる説示をした部分がないでもないが、本件記事の新聞の掲載について、被上告人の不法行為の成立を否定しているので、結局、原判決の判断は、正当というべきである。

なお、所論中には、本件記事が公明選挙の啓蒙に名をかりて上告人に対してなされた人身攻撃である旨の主張もあるが、右は原判決の認定しない事実を前提としてこれを非難するものであつて、採るを得ない。

所論は、結局、排斥を免れない。

同第二点について。

原判決は、国会議員ないしその候補者については、その適否の判断にほとんど全人格的な判断を必要とし、所論の事実もその適否の判断に関係のある事項であつて上告人の前科に関する本件記事が真実である以上その事実の公表は許される旨判示しているのであり、当審も上告理由第一点において判示したように、右判断を正当と考える。所論は、独自の見解に立ち、原判決を攻撃するものであつて、採用しがたい。

なお、所論中憲法一四条違反をいう点は、違憲に名をかり実質は原判決の法令の解釈の違法を主張するにすぎず、原判決の判断の正当なることは前段説示のとおりであつて、この点の主張も、採用しがたい。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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